
昨夜まで読んでいたロマンスファンタジー小説の中で目を覚ました。ヒロインでも悪役令嬢でもない。第三話の毒殺騒ぎで濡れ衣を着せられ、皇太子の剣に斬られて退場する、名もない侍女Aの体だった。幸い、わたしはこの小説を最後まで読んでいる。本当の毒殺犯が誰なのか、濡れ衣がどんな順番で仕組まれるのかを知っている。あの冷酷な皇太子が実は、母を殺した真犯人を捕らえるために、何年も自分の命を囮にしてきたことまで。月の宴まで九十日。侍女が皇太子のそばにいられるのはお茶の給仕と掃除のときだけ。それでも構わない。ティーカップひとつ、銀の匙ひとつ、噂ひとつまで全部ひっくり返して、第三話を破り、第四話を書き直してみせる。問題は、脚本から外れるほど、原作では侍女になど目もくれなかったあの男の視線が、なぜかわたしを追ってくることだ。
第4話からは星のかけらで開きます。一度開いた話は、いつでも読み返せます。
第1話約14分無料名を訊かれた端役原作第三話で皇太子の剣に斬られて死ぬ名もない侍女として目覚めたリネットが、その皇太子の前で顔を上げ、茶杯を灯火にかざす。
第2話約13分無料消せない一行名簿から名前を消そうとしたリネットは、法度さえ帳簿の前では止まると知る。
第3話約14分無料湯気の低い杯銀の匙の紛失で並ばされた夜明けの検問の列で、リネットは皇太子を見下ろした窓のことを隠さない。その夕方、狭い裏道で、彼は帳簿が選んだ杯を自らの手で捨てる。
第4話約10分20すすがずに皇太子の朝の茶に付けられたリネットは、毒が茶ではなく杯の金縁にあったと突き止める。証拠を自分の寝台の下に隠したまま、明日も杯を運べという約束を彼から受け取る。
第5話約10分20受け皿の音皇太子は命令を装って彼女に背を向けさせ、受け皿をすり替える。リネットは音ひとつで気づき、黙って元に戻す。計算になかったその順番に、彼は問う。なぜ分かった。
第6話約13分20半寸の折り目皇太子の書斎の床に落ちていた、月の宴の経費の書類。リネットは字が読めるのに、それを開かない。彼はその姿から、彼女が何を読まずにいるのかまで量る。そして日暮れの廊下では、侍従長の帳簿が彼女を待っている。
第7話約14分20呼びかけた名の、半分
第8話約12分20月が塀を越えるまでに
第9話約11分20名前のある手
第10話約11分20四行目