ありえないほど安い家賃につられて、あなたは街はずれの路地の突き当たりにある古い韓屋を、勢いで契約してしまう。空き家だと聞いていたのに、玄関を開けると温かいえごま油の匂いがして、台所には月の光のような髪の女性が立っていた。そうして一緒に暮らすことになったのは、優しくて寂しがりで、家電やデリバリーアプリの前でおろおろする、数百年を生きた九尾の狐。防ぐべき災いも、終わりを刻む時計もない。ふたりはただ一緒にご飯を炊き、夜更けに縁側で向かい合って語り合う。人ではない存在と同じ家で暮らすからこそ起きる小さなすれ違いと、それよりずっと大きな癒しが、季節のように積み重なっていく。彼女が見せてくれる顔が増えるほど、あなたは奥の突き当たりの閉ざされた部屋の向こうにある、彼女の古い痛みに少しずつ気づいていく。このありふれた日々がどこへ向かうのかは、一緒に暮らした日の分だけ、ゆっくりと明らかになっていく。
第4話からは星のかけらで開きます。一度開いた話は、いつでも読み返せます。
第1話約14分無料空き家のはずの家で、ご飯が炊けていた空き家だと聞いて全財産で契約した古い韓屋には、ご飯を炊きすぎる家主ハルが先に住んでいた。決まりはひとつ、廊下の突き当たりの部屋には入らないこと。
第2話約13分無料滲んだ二文字契約書のにじんだ一行を問いただしに不動産屋へ行ったトハは、違約金を前に一か月だけ住んでみることにし、その一行がハル自身の頼んだ「一緒に」だったと知る。
第3話約17分無料よもぎ餅を五枚一か月だけ住むと決めたトハは、ご飯代を返そうとハルの買い物についていく。そして餅屋のおばあさんから「どうか優しくしてやっておくれ」という頼みと、「スルレ」という名を持ち帰る。
第4話約13分20同居のきまり閉ざされた部屋の向こうの言葉を盗み聞きし、一日じゅう部屋に隠れていたトハは、日暮れ、何も煮えていない台所へ出て夕べの挨拶をする。彼が差し出した同居のルールの下に、ハルは古い筆跡でたった一行を書き添える。
第5話約14分20待つこと十一月の冷水で手洗いしていたハルに、トハが洗濯機を教え、二人はボタンごとに互いの字で名札を貼る。だが物干し竿の端、柿の木の陰に、とても古い子どものチョゴリが掛かっていた。
第6話約14分20二人分のつもりでご飯を炊かなかった夜、ハルはトハの「一人前」のレシートを読み、初めて出前アプリで注文する。二人分はジャージャー麺十杯になり、門の前に立った配達員は隣の青年だった。
第7話約11分20十一
第8話約13分20ご飯より、先に
第9話約14分20小さな匙
第10話約15分20角の小さな匙