帝国では人ごとに値があり、銀の秤はその値を隠さず読んでくれる。ところが競売場に引き出された剣闘奴隷ひとりだけ、頭上が空白だった。彼を買い取った最初の夜、その男は寝台ではなく、私の部屋の扉の前の床に座った。
値で回る帝国で、オクタヴィアンは人の値を一目で読む眼を持っている。競売場で初めて値の読めない者に出会い、残る財産を叩いて彼を買う。マクシモは昼は砂の上で笑いながら人を伸し、夜は自分を買った主人の部屋の扉の前に座って朝まで動かない。邸の外では四千枚の獣を狙う手が増え、内では命令がひとつ交わされるたびに、敷居ぶんの距離だけ何かが減っていく。値が出ない理由を知る日には、買った者と売られた者、どちらが損なのかも分かってしまう。
- 砂の上では十人を伸してなお笑っていた彼が、あなたが自ら傷を洗ってやると、初めて笑いを消して手を引く瞬間。
- 客が呼ぶ値とその肩の上に出た値が食い違うのをあなただけが見て、値の駆け引きひとつで邸の一日が丸ごと覆る瞬間。
- 扉の前に座る彼へ中で寝ろと命じたとき、命令だから従うと言って、敷居をたった一掌ぶん越えてまた座る瞬間。





オクタヴィアン
兄が遺したのは、屋敷が一軒と、返しようのない借財と、屋敷二軒分の金を払って買い上げた剣闘奴隷がひとりだった。目を覚ませば、あなたはその家の新しい主人オクタヴィアン。兄の名を刻んだ鉄の首輪をはめたマキシマスが、夜ごとあなたの部屋の前に座っている。値のつかない者を人の数に入れない帝国で、十人を沈めてなお値の上がらないこの男に、あなたは値をつけてやるか、さもなければ値の外へ連れ出してやるか、どちらかを選ばなければならない。


砂の上では十人を伸してなお笑っていた彼が、あなたが自ら傷を洗ってやると、初めて笑いを消して手を引く瞬間。









